Flit Department of Flipped Learning Technologies 東京大学大学院情報学環・反転学習社会連携講座

2014. 5.24 開催

第2回 公開研究会

反転授業のデザインと評価手法
先駆者に聴く、反転授業の概念と実践事例

Aaron Sams FLIT Seminar

講演
米国における反転授業の最前線

Aaron Sams FLIT Seminar

Aaron Sams

反転授業の原点とは

もともと私は、生徒たちにより多くの学習時間を与えたいと思っていました。伝統的な授業のように、教師の準備ができたら教えるのではなく、生徒個々人の準備ができたら学ぶというように、生徒に適応させる授業を行いたかったのです。研究で明らかになっていますが、活発に活動することは学びに繋がります。今まで、教室の中で1番活動しているのは教師で、生徒は退屈そうに教師の話を聞いているだけでした。
教師として、自分の持っている知識を説明するのは簡単です。生徒にとっても、授業中に板書をノートに移すことは簡単で、学校から帰ってから家で宿題をするのが普通です。わからないことがあっても親に聞くしかありませんが、そこに教師がいればなんと良いでしょうか。

Bloom's Taxonomy (Revised) 心理学者・ブルームの分類でいえば「知識(knowledge)」と「理解(comprehension)」の部分に、私たちは教室での貴重な時間を費やしてきました。けれども私は、生徒たちには、「分析(analysis)」や「応用(application)」として、自発的にプロジェクトや実験を行う時間をもっと多くとってほしいと思っていました。つまり、記憶と理解を自宅で行い、プロジェクト活動など応用の難しい部分を教室で行おうと思ったのが反転授業の始まりです。

なぜビデオ視聴が有効なのか

Aaron Sams FLIT Seminar 従来の授業は、情報伝達を中心に成り立っていましたが、そこでは「その場に一緒にいる」ことは必ずしも重要ではないと気がつきました。むしろ自宅でビデオを見る場合、再生、巻き戻し、停止などが自分のペースでできるので、生徒が情報を理解しやすいように感じました。また、書籍であれば文字と画像情報のみですが、ビデオは音声、映像、文字などの多様なメディアが融合しているという点で、制限が少ないのです。
また、ビデオを使うと時間を有効に活用できるので、教室での時間が余ることもわかりました。そこで、授業内では、まず実践活動(practice)を行うことにしました。さらに、応用(application)、分析(analysis)、創造活動(creation)まで行ってみたところ、生徒が自ら工夫して創造的な学びをするようになりました。
ビデオの長さについては、年齢×1分(12歳なら12分)くらいが適当なのではないかと考えています。専門家がつくった映画でさえも、1時間程度で疲れてしまうこともあるので、講義の動画はそれ以上に負担になるでしょう。テスト前に見返すことなども考慮に入れると、重要なトピックを詰め込んだ短いビデオがよいと思います。
Creation vs Curation 最良のビデオは、教師が自分でつくったものでしょう。なぜなら、生徒たちの現在の状態、好み、興味関心などを1番知っているのは、その教師だからです。先生が労力をかけていることは、生徒に自然と伝わるでしょう。しかし、他の人がつくったビデオの中にも素晴らしいものが増えているので、組み合わせてみるのもよいでしょう。

大切なのは授業時間の活用

今後、あらゆる授業がビデオで配信され、いつでもどこでも受講できるようになっても、生徒は授業に出席しなければいけないのでしょうか。また、教師の意義はどこにあるのでしょうか。
そもそも、教育者は案内役であると同時に教えることの専門家であり、生徒のことを大切に思い、彼らに尊敬の念をもっている人びとです。今日の教師には、対面での授業をつくり変えることが求められています。よりよい教室の使い方を考え、自身の経験を生かす必要があります。反転授業において教師は、前に立って教えることはしませんが、生徒が必要なときに適切な援助を行うべきです。
Bloom's Taxonomy (Revised) ...and flipped 反転授業はツールであり、目的ではありません。どのような科目、授業、学年でも用いることができ、その目的は教室での授業を有効に活用することにあります。例えば、教室でグループ活動などを行うことで、教室内のインタラクションは格段に促されます。ブルームの分類を反転させてみると、現代において創造性はとても大切だということがわかります。創造性を養わせるために、時間を割いて指導することはとても重要で、そのために反転授業があるといっても過言ではありません。

反転授業が抱える課題

Aaron Sams FLIT Seminar 反転授業を行うにあたっては、気をつけるべきことがいくつかあります。例えば、ビデオを撮影して宿題として見せるだけというのは、基礎的な反転学習の第1段階ではありますが、ビデオを使えば完成というわけではありません。教室の中でどのような活動を行うか、ということを考えなければならないのです。
また、生徒の家庭環境によって情報格差があるのではないか、という問題もあります。自宅でインターネットにアクセスできない生徒にはUSBなどで、パソコンのない生徒にはDVDに変換して映像を提供するなどの対応を行いました。格差はあったとしても、個別に対応することは可能です。 さらに、宿題(ビデオ視聴)をしなかった生徒への対応についても考えなくてはなりません。事前に映像を見てこなかった生徒には、教室で視聴させるのもよいでしょう。

案内役としての教師の役割

現在は、学習者としての役割も、教師としての役割も変わってきています。学習者は、ただ教師の話を聞くだけでなく、手元のパソコンから教師の発言内容について追加で調べたりすることができます。
20年前の記事に、「教師は賢者ではなく、案内役であるべきだ」という記述があります。テクノロジーが発達した今日、案内役であるために教師がすべきことは、ビデオを活用して宿題させるだけでなく、いかにして教室での時間を上手く使い、生徒によりよく学んでもらうのかということなのです。それこそが、反転授業の本質です。
今日の講演のポイントとして、記憶に留めてほしいことがあります。繰り返しになりますが、反転授業は目的ではなく、新しく生徒中心型の授業へ移行するためのツールです。対面でよりよく学ぶ時間を確保するためであり、多様な学びの可能性を拡げるものであるということをどうか忘れないでください。

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