Flit Department of Flipped Learning Technologies 東京大学大学院情報学環・反転学習社会連携講座

2015. 2.24 開催

関西大学教育開発支援センター
反転授業公開研究会(FLIT共催)

反転学習はディープ・アクティブラーニングを促すか?

吉見俊哉 FLIT Seminar

基調講演
Attack Me! からVisualizing Postwar Tokyoまで
個人的な軌跡から考える

吉見俊哉 FLIT Seminar

吉見俊哉
東京大学/副学長 大学総合教育研究センター長

私は山内先生、溝上先生のように教育の専門家では全くございません。教育学につきましては素人でございます。そういう私がこれまでやってきたことや今回MOOCで経験したことをお話させていただくことで、少しでもみなさまへの情報提供になればと思った次第です。それがアクティブ・ラーニングや反転授業、あるいはそうした高度な教育実践の視点から見るとどういう風に見えるのか、むしろ分析していただきたいという思いでここに参りました。

教育の方法を考えるきっかけから現在までの大学院教育現場の背景

私が本格的に教育の方法を考えなければならないと素人ながら思い考え、実験を始めたのは90年代終わりの頃です。特に大学院の授業に関してです。それまで私のゼミは10人前後のゼミ生の人数でしたが、一気に30人を越える院生が来てしまいました。関心も多様であり、学力レベルも結構な幅がありました。こういった学生達と一緒に学習していくときに彼らのためにどういったことができるのか、これらが90年代末から2000年代にかけての私の一つの課題でありました。

「Attack Me! 吉見俊哉を叩きのめせ」が誕生した経緯

90年代前半は大学院生の数は限られていましたし、学生の質も揃っていたことから初歩的なことは省き、専門の英文の本を読もうといったところから始まりました。しかし90年代後半にはこのやり方が通用しなくなっていました。そもそも、論文を読むということはどういうことなのか。研究をするということは何なのか、更に修士論文や博士論文を書くということはどういうことなのかということを学生達に伝えなければならなくなりました。

そして突き詰めて考えた結果、先行研究のレビューがちゃんとできていない、何でやるのか分かっていないということが分かってきました。ということで、最終的に考えたのは自分がサンドバックになる「Attack Me! 吉見俊哉を叩きのめせ」という授業実践です。つまり、研究テーマの多様性に対応するには時間が足りない。重要なのは方法である。ものを考える方法、ものを書いてく方法、ものを調べたり、分析する方法が重要なのだから、方法論を身に付けさせるためにはやはり、自分がある種のサンドバックになるのが一番ではないかと考えました。これは結構教育効果があり、5年ほど実践しました。

IT化における知識の在り方

吉見俊哉 FLIT Seminar 2000年代に入ってくると、ITが広がりを見せました。そのとき、知識とは何なのかということが問われてきました。IT化で一定の知識に行き着くことが非常に容易となりました。結果として、ネット上の情報をコピーしていわゆるコピペをして小レポートをつくってしまうという例も何件かありました。
そうすると、ネット情報を見ることと図書館の本を読むことの何が違うのかということを突き詰め、教育のベースを考えなければならないと思いました。考えてみると、ネット情報と図書館の本という間には、知識という点で考えてみると2つの違いがあるのです。1つ目は、作者性の問題です。ネット情報は誰の知識かということよりもみんなの知識であるということ強調しています。しかし、そこで問題となってくるのが誰の知識なのかという作者性の問題です。もう1つは知識の構造性の問題です。知識の構造性とは、ひとつひとつの要素がどのような事柄を意味しているかということではなく、要素と要素がどのように構造化され繋がっているかということが重要でそれが知識なのです。また、知識というものは歴史性の問題があります。知識は長い時間を使って積み上がってきたものでそういった知識と対話するということがとても重要なのです。
これらの様々な前提条件を踏まえた上で2010年代に入ったところにMOOCの登場があり、Visualizing Postwar Tokyoというものにチャレンジすることになったのです。

MOOCコースの制作

もちろん英語での講義も大変でしたが、一番の苦労は、各動画ユニットを7分から8分でまとめなくてはならなかったことです。これがとにかく大変でした。MOOCの映像講義はスマートフォンやタブレット端末で視聴するわけですから、10分以上の視聴には適さないのです。私たち大学の教員は90分でひとつの話にまとめることは慣れているのですが、短時間で1つの話をまとめるということは非常に難しかったです。

反転学習の実践

反転学習では予備知識を自宅で学習してきているため、学校の授業では様々な応用的な学習に時間を用いることができます。例えば、授業でフィールドワークを行った時のことです。キャンパスの周りに出ていき、短い映像を撮ってくる、そしてその動画について英語でディスカッションを行うことにしました。
そういったことを踏まえプロジェクトチームを編成し役割分担を決め、冬休み期間にフィールドワークをしながら調査・映像制作し、冬休み明けに編集するという形を取りました。
驚いたのは映像のクオリティが高かったということです。私自身、学生が書いた論文を読んですごいと思うことはそんなに無いのですが、若い人が映像を創る能力はすごく上がっている。そして、更にアドバイスを与えたら更に洗練された映像を創ってきます。これはまさに私たちが予想もしない学びが創発されているのかもしれません。

国際化に向けたMOOCの位置づけ

日本の大学は、これまで固い殻をかぶった甲殻類でした。しかし急速なグローバル化で殻は溶けつつあります。その中で大学教育の質を維持するためには、世界と連携するヨコ骨と、高大連携やキャリアパスを支えるタテ骨を持つ「脊椎動物」になることが必要です。反転学習で授業が再構造化され、新しいビジュアル・インタラクティブな未来の教科書の形が現れつつあります。つまり、MOOCといった新しい教科書と実際の授業この関係が全体としてグローバルに再編成されているということがこの動きの中で重要なことではないでしょうか。

吉見俊哉 FLIT Seminar